「コンタクトレンズがどうやって酸素を通すのか?」という疑問の答えは「酸素透過性の高い素材の使用とレンズ設計によるもの」です。
現代のコンタクトレンズは、特にシリコーンハイドロゲルなどの素材を使用しており、これらは高い酸素透過率を持ちます。
角膜は血管を持たないため、酸素を直接大気から取り入れる必要があり、コンタクトレンズを通じて十分な酸素が供給されることが非常に重要です。
今回は、コンタクトレンズがどうやって酸素を通すのか?科学的メカニズムを詳しく解説していきます。
コンタクトレンズ:酸素透過性のメカニズム
素材
コンタクトレンズの酸素透過性は、レンズがどれだけ効果的に角膜へ酸素を供給できるかに関連していて、主にレンズの素材に依存します。
現在、コンタクトレンズに多く使われているのは、シリコーンハイドロゲル素材です。
シリコーンハイドロゲル素材には、優れた酸素透過性があります。
シリコーンはケイ素原子と酸素原子、メチル基が結合した分子構造を持ちます。
この構造では、ケイ素と酸素の結合が屈曲しており、分子が自由に回転しやすいため、素材内に微細な隙間が多く形成されます。
微細な隙間により、酸素がレンズを通過しやすくなり、角膜への酸素供給が大幅に向上します。
(参考動画:酸素を通すコンタクトレンズ(NHK for School))
含水率
また、含水率も酸素透過性に影響を与えます。
高含水レンズでは、水分が多いために溶け込む酸素の量が増え、それによって瞳に届く酸素の量も増加します。
シリコーンハイドロゲル素材は低含水レンズに分類されることもありますが、素材自体の酸素透過性が非常に高いため、高含水レンズに匹敵する酸素供給を実現しています。
このように、コンタクトレンズの素材と含水率が組み合わさることで、酸素透過性が最適化され、角膜の健康を維持するための十分な酸素供給が可能となります。
構造の工夫
コンタクトレンズが効率的に酸素を通すためには、構造にも工夫が必要です。
シリコーンハイドロゲルレンズの構造的な特徴は、高い酸素透過性を実現しつつ、快適さを保持するために設計されています。
薄型設計
シリコーンハイドロゲルレンズの最も重要な構造的工夫はその薄さです。
レンズが薄いほど、酸素が通過する距離が短くなり、より多くの酸素が角膜に届きます。
この薄型設計は、特に長時間の装用において角膜の健康を維持するのに役立ちます。
均一な酸素分布
先進の製造技術により、レンズ全体にわたって均一な酸素透過性を持たせることが可能です。
この均一性は、レンズ表面全体から一定量の酸素が角膜へ供給されることを保証し、局所的な酸素不足を防ぎます。
エッジデザイン
レンズのエッジ(端)部分のデザインも酸素供給に重要です。
適切に設計されたエッジは、レンズと眼球の間の微小な隙間を作り出し、この隙間を通じて涙液が循環します。
涙液の流れは酸素を角膜へ運び、また不要な代謝物質を洗い流す役割も担います。
表面処理の最適化
表面処理技術により、レンズの濡れやすさが向上します。
これは、涙液がレンズ表面に均等に広がりやすくなることで、酸素が水分を介して角膜に届けられる効率を高める効果があります。
また、良好な濡れ性は装用感を向上させ、目の疲れや刺激を減少させます。
コンタクトレンズの素材の進化
コンタクトレンズの素材は数十年にわたって進化してきました。
初期のコンタクトレンズは硬質であり、主にガラスやPMMA(ポリメチルメタクリレート)といった素材が使用されていました。
これらの素材は酸素透過性が非常に低く、長時間の使用には適していませんでした。
1970年代に入ると、より柔軟で酸素を通す能力が高い素材が求められ、それに応える形でハイドロゲル素材が開発されました。
ハイドロゲルは水分を多く含むことができ、その水分を通じて酸素が角膜に届けられるようになりますが、依然として酸素透過性には限界がありました。
シリコーンハイドロゲル素材の開発は、これらの問題を解決する画期的な進歩をもたらしました。
シリコーンは酸素透過性が高いため、レンズ全体の酸素透過性を向上させることが可能です。
シリコーンとハイドロゲルを組み合わせた「シリコーンハイドロゲル」は、高い酸素透過性と必要な水分保持能力を両立できるのです。
シリコーンハイドロゲル素材のコンタクトレンズは、レンズを通じてより多くの酸素が角膜に届くようになり、長時間の装用でも角膜の健康を維持することが可能になりました。
シリコーンハイドロゲル素材は現在、多くの現代的なコンタクトレンズに使用されており、特に日中長時間レンズを装用する人々に適しています。
また、乾燥感を低減し、快適性を向上させる特性も持っています。
シリコーンハイドロゲルはプラスチックです。シリコンとハイドロゲルを組み合わせた新素材です。
コンタクトレンズの「Dk値」と「Dk/L値」
コンタクトレンズの酸素透過性は、レンズ素材の「Dk値」とレンズの厚みを考慮した「Dk/L値」で評価されます。
この値は、レンズを通じてどれだけの酸素が角膜に届けられるかを示します。
- Dk値(酸素透過係数):
Dk値は、コンタクトレンズ素材自体の酸素透過性を表します。これは、特定の厚みの素材を通じてどれだけの酸素が一定時間に移動できるかを示す数値です。例えば、シリコーンハイドロゲル素材は非常に高いDk値を持つことが多く、これはシリコーンが自然に酸素を通過させる能力が高いためです。 - Dk/L値(酸素透過率):
Dk/L値は、レンズの特定の厚みに対する酸素透過性を示します。これは、レンズが角膜に接触する実際の状態をより正確に反映しており、レンズの実際の酸素供給能力を評価する際に重要です。この値が高ければ高いほど、レンズはより多くの酸素を角膜に供給できると考えられます。
シリコーンハイドロゲルレンズは、その構造が酸素透過性を最大化するよう設計されています。
シリコーンの含有により高いDk値が得られる一方で、レンズの設計によってDk/L値も最適化されています。
これにより、シリコーンハイドロゲルレンズは、他の素材に比べて角膜に対して酸素をより効率的に供給することが可能です。
シリコーンハイドロゲル素材と他の素材のDk値とDk/L値を比較するための表を作成しました。
以下に、シリコーンハイドロゲル素材の各社コンタクトレンズと、従来のハイドロゲル素材を用いたコンタクトレンズのDk値とDk/L値のデータを示します。
製品名 | 素材タイプ | 使用期間 | Dk値 | Dk/L値 |
---|---|---|---|---|
エアグレード ワンデーUVWモイスチャー | シリコーンハイドロゲル | 1DAY | 140 | 187 (-3.00D) |
ワンデーリフレアシリコーンUV Wモイスチャー | シリコーンハイドロゲル | 1DAY | 140 | 187 (-3.00D) |
デイリーズトータルワン | シリコーンハイドロゲル | 1DAY | 140 | 156 (-3.00D) |
プラネアワンデー | シリコーンハイドロゲル | 1DAY | 133 | 166 (-3.00D) |
2ウィークリフレアシリコーン UV | シリコーンハイドロゲル | 2WEEK | 140 | 175 (-3.00D) |
2weekメニコンプレミオ | シリコーンハイドロゲル | 2WEEK | 129 | 161 (-3.00D) |
バイオフィニティ | シリコーンハイドロゲル | 2WEEK | 128 | 160 (-3.00D) |
一般的なソフトコンタクト (HEMA素材) | ハイドロゲル | – | 約18 | 約30 (-3.00D) |